DBS療法が有効な症状と脳内のターゲット

前述の通り、L-ドパ製剤を中心としたパーキンソン病の治療では、長期間の薬剤投与により、症状の日内変動(wearing-off現象、on-and-off現象)や不随意運動などの新たな症状が誘発されるようになります。また、パーキンソン病自体が、長い間に薬剤抵抗性となっていることもあります。こうした、長期的な薬物治療の後に発生した症状を改善させるのが、外科治療の役割と言えるでしょう。パーキンソン病に対する外科治療の適応と禁忌について、要約すると以下のようになります。

こんな方にDBS療法をお勧めします。

  • 薬が体に合わず、薬物治療が適さない方
  • 適切な薬物治療にもかかわらずパーキンソン病の症状が充分コントロールされない方
  • 薬物の長期服用により、症状の日内変動や不随意運動などの副作用でお困りの方
  • 薬物治療によりある程度症状がコントロールされるものの、さらに状態を良くしたい方

こんな方では残念ながらDBS療法は適応できません。

  • 広範な脳梗塞や脳腫瘍などの器質的脳疾患のある方
  • 重篤な痴呆症のある方
  • 著明な脳萎縮を認める方
  • うつ病や精神分裂病などの精神症状がある方
  • 重篤な全身合併症がある方

同じパーキンソン病の患者であっても、その症状により、DBS療法で電極を挿入するターゲットは異なります。視床下核、淡蒼球内節、視床については、それぞれのターゲットによる効果は以下の通りです。

視床下核に対する手術

視床下核をターゲットとしたDBS療法は、パーキンソン病の運動症状全般(筋固縮・振戦・寡動・姿勢反応障害)に有効であり、日内変動を軽減する効果もあります。又、最大の利点は、この手術の後はL−ドパ製剤の量を減らす事のできるため、症状の改善とともに薬物治療の副作用を抑えることにも有効です。パーキンソン病に対する脳深部刺激療法のターゲットとして最も選択されることが多い部位で、手術は左右両側性に電極を埋め込むことが一般的です。

淡蒼球内節に対する手術

L−ドパ製剤の長期服用で誘発される不随意運動(ジスキネジア、ジストニアなど)を抑制する効果があります。又、筋固縮の強い症例に対しても効果的で、L−ドパ内服時のoff-periodの状態をon-periodの状態まで改善し、日内変動に効果的です。この手術でも、左右両側性に電極を埋め込むことが多いです。

視床に対する手術

パーキンソン病の主症状である振戦に対して特に効果があります。振戦の他に筋固縮にも有効であり、これらが主な症状である患者では、視床腹中間核(Vim核)や外側核(VL核)がDBS療法のターゲットとなります。通常は、振るえのある側と対側の脳の一側性に電極を埋め込みます。両側に振るえのある患者や頚部などに認められる例では、視床下核や淡蒼球と同様に両側の手術が必要になることもあります。