ガンマナイフ

東京大学医学部附属病院脳神経外科では、国内では初めて1990年よりガンマナイフによる治療を開始しており、現在まで15年以上にわたる治療経験を元に下垂体腺腫に対するガンマナイフの適応について御説明いたします。

ガンマナイフとは何か

ガンマナイフとは、放射線の201個の細かいビームを、虫眼鏡で太陽の光を一点に集めるように、病巣部のみに集中して照射する治療法です。

この治療の良い点としては、重要な組織が密集している頭蓋内でも治療をすることができるという点です。しかも、患者様の体の負担は非常に少なく、心臓やその他の全身の問題があり全身麻酔下での手術が困難な患者様や、小児から高齢の方まで、どなたでも安全に治療が受けられる点です。

治療は通常2泊3日の入院で、一般的な放射線療法でみられるような治療後に髪の毛が抜けるような心配もありません。治療当日は、頭部に特殊金属のフレームを固定し、MRIを施行します。その後、そのデーターをもとにコンピューターで腫瘍の存在する座標を正確に把握し、照射します。

ガンマナイフによる治療の手順

ガンマナイフサポート協会 ホームページより (文)

1日目:
入院・術前検査
2日目:ガンマナイフ治療
フレームの装置:
洗髪・局所麻酔をして、座標目盛付きの金属フレームを4本のスクリューで頭部にかたく固定します。
治療計画:
CT、MRI、脳血管撮影などの検査結果から、病変部分と照射部分の位置を決めます。その後、コンピューターで放射線の照射線量や照射時間の決定や、コリメータヘルメットの選択(201個の穴の開いた鋼鉄製のヘルメットで、穴の大きさが4・8・14・18mmの4種類ある)を行います。
治療の開始:
選定したコリメータヘルメットをガンマナイフ本体に取り付けます。患者のベッドが移動して頭部が装置に入ると治療開始です。ガンマ線照射時間は、約5〜10分間。病巣の位置や形状・大きさによっては、数度繰り返して照射します。治療全体にかかる時間は平均して3時間程度です。
3日目:
退院
退院後:
3〜6ヶ月毎の経過観察

ガンマナイフによる下垂体腺腫の治療目的とその効果

手術と同様、ガンマナイフによる下垂体腺腫の治療の目的も二つあります。 一つは増大傾向のある腫瘍をこれ以上成長しないように抑える事、もう一つは、機能性腺腫では過剰なホルモン産生を正常に戻す事です。

下垂体腫瘍の増大を制御することについては、ガンマナイフによる治療では腫瘍辺縁で14Gy以上と比較的少ない量の放射線を照射することで可能ですが、機能性腺腫でホルモン産生能の改善を期待する場合には腫瘍辺縁に25Gy以上の比較的高い放射線量を照射する必要があります。下垂体という組織のすぐそばには視神経が走行しており、この視神経が放射線に最も弱い部分の一つであるため、ガンマナイフにて治療する際には腫瘍が視神経から充分離れている必要があります。

具体的には腫瘍が視神経より最低でも2mm以上離れており、かつ、大きさが大体2.5cm未満である必要があります。手術での摘出が困難な場所の腫瘍や、術後残存した小さな腫瘍等はガンマナイフの非常に良い適応といえるでしょう。

下垂体腺腫に対するガンマナイフの利点と欠点

ガンマナイフによる機能性腺腫に対する治療では、手術や従来の放射線治療と比べ、患者の負担は明らかに少なく、下垂体機能低下等の合併症も稀です。又、最大の利点は、治療が2泊3日と短期間で済み、海綿静脈洞進展を示している腫瘍に対しても安全に治療が可能である事です。その治療効果については、通常、治療後2から3年以内に認められる場合が多く、従来の放射線治療と比較して早期に症状の改善が認められます。下垂体腺腫の増殖制御という点でも非常に優れており、90%以上の高い有効性が報告されています。

こういった患者に対する低侵襲性という見地から、定位放射線外科治療は近年急速な普及をみせています。しかしながら、上述のとおり鞍上進展を認める腫瘍では、治療の適応が難しい場合が多く、機能性腺腫に対する治療では、過剰なホルモン産生能の治癒率において25 %から70 %と、手術や分割照射には劣っています。又、比較的新しい治療であるため15年以上の長期的な合併症や治療成績が依然として不明です。我々の症例でも治療後5年以上経過して脳神経麻痺や汎下垂体機能低下の合併症を呈する例を認めており、この事はさらに長期的な治療成績の評価が必要不可欠であることを示唆しています。

以上の点より、下垂体腺腫のガンマナイフによる治療は、高齢者や全身合併症により安全な手術が困難な場合に適応となります。我々の経験では、機能性腺腫についていえば、治療時の過剰ホルモンの血中濃度が低い症例ほどガンマナイフ後の治癒率が高く、又、治癒までに要する時間が短いようです。したがって、安全に摘出可能な症例では、できるかぎり手術摘出を行う事を基本とし、又、腫瘍が外側に浸潤し、全摘が困難な場合には後遺症を残さない程度の切除に止め、後日、ガンマナイフを行うという方針を最も推奨しています。

ガンマナイフの装置ガンマナイフの装置

ガンマナイフ装置 頭部分ガンマナイフ装置 頭部分

ガンマナイフ治療イメージガンマナイフ治療イメージ