患者様やご家族様、医療従事者様への支えとなる脳の病気の知識を紹介しています
詳細はこちら

専攻医の過労自殺について思うこと

コラム

神戸市東灘区の「甲南医療センター」の専攻医(当時26歳)が過労自殺した。

https://news.yahoo.co.jp/articles/03e0ec4eae3cf0377d6bab6932c288ed5cc509d7

出典:読売新聞の記事を改変

医師の長時間労働は、長年問題となってきましたが、また一つ、医師の過労自殺という悲しいニュースが報じられました。この問題は医療現場における深刻な課題であり、その背後には様々な要因が絡んでいます。本記事では、医師の長時間労働の問題点とその改善策について、「めちゃくちゃ忙しい」脳神経外科医の目線で考えてみたいと思います。

そもそも専攻医とは?

ニュースにある「専攻医」とは何でしょうか?医師は医師法第16条に基づき、2年間の臨床研修を必ず受けなければなりません。この期間は研修医と呼ばれます。研修医は近年労働時間が短縮される傾向にあり、以前ほど過重労働ではなくなってきてました。一方で、研修医が終わると多くの医師は、特定の科の専門医になるためにより専門的な研修を3年間行います。この期間、つまり3年目から5年目の医師が専攻医と呼ばれます。専攻医は、その科の一番下の医師であり、急患対応、病棟業務、書類仕事などありとあらゆる業務を一手に引き受ける必要があります。もちろん科によって、忙しさは異なります。特に、「循環器内科」「消化器内科」「外科」「脳神経外科」「産婦人科」「小児科」などは、救急患者も多いため非常に忙しい診療科です。このような科の後期研修を受ける専攻医は、その忙しさに耐えられずやめていくケースも多々あります。さらに上級医たちは、自分たちも同じような(あるいはもっと劣悪な環境で)研修を受けており、部下にも容赦ないというケースがかなりあります。ですから、特に忙しい診療科の専攻医は想像を超えるくらい業務があり忙しいのです。記事にある「朝5時半に起きてタクシーで出勤し、午後11時に帰宅している」「土日も行かないと業務が回らない」というのは、多くの専攻医が経験していると思われ、このような劣悪な労働環境は早急に変える必要があると思います。

業務と自己研鑽があいまいすぎて話にならない

医師の労働時間は、判断が難しいのです。その最大の理由は、「業務」と「自己研鑽」の区別があいまいだからです。

医師は通常業務に加えて、診療技術の向上のために論文を読んだり、手術の練習を行ったりします。またその他に、学会発表、院内勉強会の準備、論文作成なども行います。「診療ガイドラインの勉強」や「治療法の勉強」、「術者として担当する手術の準備や復習」などは、診療の準備行為もしくは診療後の後処理であり、「業務時間」に含まれます。

その他にも医師は、「学会」で発表することや「論文」を作成することが求められます。とくに、専攻医の場合には、専門医試験の受験条件になっていることもあるので、学会発表や論文作成は必須なのです。ちなみに、学会発表や論文作成は膨大な時間がかかります。これを、忙しい日常診療の合間にやるにはかなり工夫が必要なのです。現在の基準では、診療業務を行う上で必須でないものに関しては、「残業」ではなく「自己研鑽」に分類されます。しかし、学会発表、院内勉強会の準備、論文作成などに関して、自由意志ではなく上司からの命令である場合も多々あり、仮にこれらを実施しなかった場合には、業務上不利益を被る可能性は十分あります。上司の指示があったかどうかはあいまいであるため、これらは「自己研鑽」に分類され、残業とみなされないケースが非常に多いのです。

「センターは長時間労働を指示したことを否定」の闇

そもそも医療機関が長時間労働を指示することなどありません。しかし、どれだけ手際よくこなしたとしても、「急患は突然運ばれてくる」「病棟で急変する」などということは日常茶飯事であり、もちろん対応が遅れれば、命にかかわることがあるため、リアルタイムで駆けつける必要があります。ですから、病院が指示しなくとも、専攻医は働かなければいけない環境にあるのです。また、多くの病院で残業を申告しにくい空気があると思いますが、残業の申告は労働者の権利ですので、しっかり行いましょう。

どうすればよいのか?

私からの提案は以下のようなものがあります。

1. 病棟体制を主治医制からオンコール制にする

「何かあれば主治医に連絡」という方法が患者、医療従事者ともに安心ではありますが、医師の労働時間の適正化や休息時間の確保という観点から、あまり適切ではありません。「必ず休める時間=病院から絶対に電話がかかってこない時間」を設けることで、医師の心身の健康を担保するべきです。

2. タスクシフティング

タスクシフティングとは、医師が担当していた業務の一部を、ほかの医療従事者が実施することで、医師の長時間労働や業務負担を軽減することが目的です。診断治療などの医師にしかできない業務に加えて、オーダー業務、カルテの記載、診断書の作成、サマリーの作成などさまざまな仕事を行うことになります。医師でなくても周りのスタッフの教育により、問題なく移管できる業務については、ほかのスタッフ分担することで、医師への業務集中を軽減することができます。

3. 若手医師のサポート体制の強化

若手医師、特に専攻医は仕事に慣れていないにもかかわらず、業務量が多く、さらに上司に過重労働を主張できないケースが非常に多いのです。業務量が適切かどうかなど若手医師の心身の健康状態をしっかり管理する体制を整えることや、問題がある場合には、カウンセリングや支援を受けられるようにすることが必要であり、医療機関だけでなく、国全体で考える必要があるでしょう。

まとめ

幼いころから医師を目指していた若者が、その仕事のせいで自殺するなどということは二度と起きてはいけないと思います。医師の過労自殺は、医療現場の厳しい状況とほかの様々な要因が絡み合って生じる深刻な問題です。適切な改善策を取り入れることで、医師たちの心身の健康を守りながらよりよい医療を提供することできるよう、社会全体で医療現場の課題に向き合い、支援する姿勢が求められています。26歳の専攻医の方のご冥福をお祈りいたします。

Follow me!

  • X

コメント

PAGE TOP
タイトルとURLをコピーしました