はじめに
バイパス手術とは、血管が細くなるもしくは詰まることで、血液が足りなくなっている組織に別のルートを作ってあげ、血流の改善を目的とした手術です。有名な冠動脈バイパス術とは、狭心症や心筋梗塞などに対して、別の血管ルートを作ることで心臓の血流不足を改善してあげる手術です。一方で、脳のバイパス術というと、ピンとこない方もいるかもしれません。そこで、今回は脳外科で行われる代表的なバイパス術を紹介したいと思います。
STA-MCAバイパス術とは?
脳のバイパス手術で最も代表的な術式は、STA-MCAバイパス術です。STAとはsuperficial temporal artery(浅側頭動脈)の略語で、頭皮にある血管です。耳の前とこめかみ間を触るとドクドク拍動している血管があると思いますが、それがまさにSTAなのです。そして、MCAとは、middle cerebral artery(中大脳動脈)の略語で、脳の表面の血管です。つまり、頭皮の血管を脳の表面の血管につないであげることで、脳の表面の血流を増やしてあげるのです。
どういう方が対象になるの?
主に以下の2種類の方が対象となります。
・内頚動脈や中大脳動脈の狭窄や閉塞により、脳の血流が著しく少なくなっている
・脳血流が低下しているもやもや病、出血を起こしたもやもや病
大切なことは、血流が落ちているということです。ただ血管が細い、詰まっているというだけでは手術をする必要はありません。ですので、血管が細い、詰まっていると言われた方は、必ず血流検査を行う必要があります。血流が落ちているか判断する検査はいろいろありますが、代表的なものは、SPECT検査です。ごくわずかな放射線を出す検査薬を点滴で投与し、その検査薬がたまった脳の部位から出てくる放射線を検知し、画像化する検査です。
また、もやもや病とは脳の血管が細くなる特殊な病気です。MRIなどでたまたま見つかったものについては、基本的に手術治療の必要性は乏しいです。一方で、手足が動かしづらい、言葉が出づらいなどといった脳梗塞に似た症状がある場合や、一度でも出血した場合には、再度同じイベントが起きる可能性が高く、バイパス手術の適応となります。
具体的にどのように行われるの?
・STAに沿って皮膚を切り、STAを取り出します(根元はつながったままです。)
・皮膚切開を伸ばした後、頭の骨を外し、脳を覆っている膜(硬膜)を開けます。
・脳表の血管(MCA)を探し出し、バイパスする準備を行います。
・かみの毛より細い糸(ナイロン)で10-15針ほど縫います。
・骨を戻し、皮膚を閉じて手術終了です。
手術時間は通常4~6時間程度ですが、バイパスをつなぐ本数や病気の種類などによって多少前後します。
合併症、手術後の注意点
それほど危険な手術ではないですが、手順が多いので1つ1つ確実にこなし行く必要があります。手術後に起きうることとして、以下のようなものがあります。
・術後出血:バイパスを作ったところから出血することがあります。これを防ぐためにはなるべく細かく縫う必要があります。
・過還流:もともと血流が足りなかった部分に、血流が増えることで、逆に流れ過ぎてしまう場合があります。ひどい場合には脳出血を起こすことがありますので、手術後2,3日は血圧をしっかりと下げる必要があります。
・傷のトラブル:意外と多いので注意が必要です。もともと頭皮を栄養していた血管を頭の中につなぎますので、頭皮の血流自体は少なくなってしまいます。もちろん逆側や後ろからなど様々な動脈が頭皮を栄養していますが、手術を行った傷の部分は通常の開頭手術より治りにくい傾向にあります。ですから、傷の処置を主治医にしっかりとしてもらいましょう。抜糸の時期は通常より遅めで、手術後2週間頃に行われます。頭皮が薄い高齢の方や、糖尿病をお持ちの方は極めて注意が必要です。
noteにも掲載しています。
⇒https://note.com/nouproblem/n/n0f0da8cc5b07
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